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2006年12月 3日 (日)

「液冷戦闘機 飛燕」を読む その3

・最後の悲劇
 それは機体側の出来が良かった事。
 まず信頼性がエンジンに比べて高かった。
 陸軍機だからと言うわけでも無いだろうが、まず不時着時に下手を打たなければ機体がバラける事が無く、急降下時の制限速度は実戦では無いに等しいと言われ、性能が上の敵機の襲撃に対して急降下で逃げることができた。
 かの零戦など、機体が華奢でたしか350ノット程度の制限内でしか降下ができず、初期の「ゼロショック」時にはゼロに襲われたら急降下で逃げろと米軍では指示されていたと言う。
 機体と主翼はボルト止めで、ちょっとした重心の調整なら接続ボルトを外して前後にずらして調整すれば良く、ウェイトを搭載してやらなくとも済む構造であった。
 この構造は日本では飛燕だけだった様だ。
 
 そしてこの機体の頑丈さは体当たり攻撃でも効果を発揮してしまった。
 B29の飛ぶ高度1万メートルまで達して、まともな空戦機動ができる戦闘機が日本には存在せず、1時間位掛けてフラフラしながら達してみれば、浮いているのがやっとの状態。
 その為、上層部からは体当たり命令が出るのだが、そもそもまともに機動出来ないのだからそう簡単に当たるわけが無い。 それでも艦船への体当たりと違ってまだパラシュートでの脱出の可能性が有るだけマシだった様だが。
 飛燕の場合翼端をぶつけてへし折られても、運がよければそのまま基地まで帰還でき、墜落となっても機体が即分解する事も無かった分、生存性は高かった様である。
 高空性能をメーカーが無視していた訳ではなく、まず主翼大型化対策を施したが、エンジン出力が変わらないのに重量が増え全くダメな機となった。
 その為、ハ40をパワーアップしたハ140を開発し搭載してⅡ型となった。
 だが、ハ40の改良型ハ140エンジンがその機構の複雑さ故に生産が進まず、エンジンの無い機体ばかりが溜まる中、空冷エンジンへの換装がなされる。
 倒立V側液冷エンジンの幅に合わせて細身に作った機体に幅の広い星型空冷エンジンを載せるとなれば、普通は新型機を立ち上げるくらいの労力がいるのだが機体側では機種部の改変で済み、エンジンサイズとの微妙な一致があった事から五式戦として生まれ変わる事となる。
 で、この五式戦の性能が飛燕Ⅱ型とほぼ同等となった事で、機体設計の優秀さが証明されてしまった。
 この五式戦、もっと早くに出ていれば戦局はまた変わったかもしれないと言われるが、四式戦主体でいくことを覆す訳にいかないと優先順位が上げられなかったのも悲劇である。
 搭載エンジンの誉はその機構の複雑さで性能が全く出ないクズエンジンだっただけに、搭載した機は軒並み稼働率低下・性能不足となっていたにも関わらず。

 この飛燕を見るだけでも、当時の日本が大きい戦争が出来るような国ではなかった事がよく判る。
 大和の様な逸品製作なら対応できても、大量生産品の品質確保が出来ないで戦える時代では無かったのに。
 今は製品の品質は高いレベルを保てるが、その能力を行かせる組織や人材がいるのだろうか?と思うと・・・

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